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S君との思い出2
漆黒の闇を背景にして、はじめて淡い星の光を写すことができる。
そんな理由で山奥まで出かけてきたものの、空が曇っていたのでは仕方がない。
わざわざ新宿のヨドバシまで買いに行った高いフィルムも、重い機材も今宵は部屋の隅にある。
やることもなく定期的に外に出てはみるものの、星明りのない不気味な闇は恐怖である。
縁側づたいに二人揃ってトイレに行き、揃って部屋にもどる。そんなコントみたいなことを繰り返していた。
野球好きの彼はよくラジオに耳をくっつけ、ひとりナイターを聴いていた。
地方で聞く都会のラジオは独特の情緒を醸し出す。大きくなったり小さくなったりしながら聞こえてくる音は、遠く懐かしい世界に運んでくれる。
一方野球などまったく興味がなかった僕は、布団に包まり部屋に入ってきた虫をスケッチしていた。綺麗な一匹の蛾だった。
夏とは言え山間部の夜は寒かった。
朝方寝て「昼の用意ができました」というインターホンの声で起こされる。寝ぼけ眼で山道をトボトボと下りていくと、ほとんどの人は食事を済ませていた。そして僕たちはまた山道をトボトボと帰っていく。毎日その繰り返しだった。
ところで小学校から中学に入ると新しい仲間も出来る。そのなかにS君もいるのだが、大人になってアルバム開いてみて驚いた。
彼も含め後の親友となった連中が、同じ幼稚園のアルバムに納まっている。小学校が違っていたので気が付かなかったが、確かに彼らはいた。お互い中学ではじめて知り合ったと思っていたのだ。
潜在意識のなせる技か、類は友を呼んだのか、かつて同じ幼稚園で過ごした仲間が、無意識にまた同じ仲間を作っている。
「袖刷りあうも他生の縁」。いま親しくしてる誰かも、悠久の昔には・・・と考えることがある。
かくして3日目の晩、待ちに待った星空にめぐり合えた。
いよいよ撮影だというとき「ああ銀河が見える」と彼が空を指差した。S君の示す方向には薄雲がかかっていたので「え、どこどこ?」と何度も確認したがわからない。「あれだよ」というので、じっと見据えると何と雲にあらず、それがまさに「天の川」だった。
じつに驚いた。感動した。そして時間が止まった。はるかに時を越えた、悠久の世界がそこにあった。
僕は何万年もの時間をこの一点に集め、目の前に放ったようなそんな感覚を覚えた。
17歳の夏である。
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日記
閲覧数 55
2008/11/28 01:42
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